建築家の隈研吾氏がデザインした公共トイレが、東京都渋谷区に誕生した。2021年6月24日、東急文化村(Bunkamura)や東京大学駒場地区キャンパスに程近い鍋島松濤公園内で、「鍋島松濤公園トイレ」(住所は松濤2-10-7)が供用を開始した。

渋谷区の鍋島松濤公園内に完成した隈研吾氏による「鍋島松濤公園トイレ」(写真:日経クロステック)

渋谷区の鍋島松濤公園内に完成した隈研吾氏による「鍋島松濤公園トイレ」(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

 「森のコミチ」と名付けられたトイレは、森の中にある集落のようなたたずまいをしている。隈研吾氏はこれを「公衆トイレの村」と表現する。

 5つの個室(小屋)を分棟とし、「子育て(幼児用)」「身だしなみ配慮(中で着替えができる)」「車椅子用」といった具合に用途を明確にした。男女で個室を分けるのではない、新しい発想だ。個室と個室の間には木チップを敷いた小道を設け、通り抜けられるようにした。「風通しが良い、ポストコロナ時代にふさわしい公共トイレができた」と、隈研吾氏は満足げだ。

トイレの前で会見した隈研吾氏。公共トイレをデザインしたのは約30年ぶり、2回目だといい、トイレには強い思い入れがあるという(写真:日経クロステック)

トイレの前で会見した隈研吾氏。公共トイレをデザインしたのは約30年ぶり、2回目だといい、トイレには強い思い入れがあるという(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

 各個室は隈研吾氏の代名詞ともいえる、スギ板のルーバーで覆った。厚みのある高級な吉野杉の板を、240枚使っている。外観は、公園に生える木立のようだ。見る角度によっては、トイレだと気づかない人が大勢いるかもしれない。

施設は5つに分棟し、各個室の外壁をスギ板のルーバーで覆った。スギ板は耳付きの吉野杉をぜいたくに使い、自然に近づけるようにランダムな角度で取り付けた(写真:日経クロステック)

施設は5つに分棟し、各個室の外壁をスギ板のルーバーで覆った。スギ板は耳付きの吉野杉をぜいたくに使い、自然に近づけるようにランダムな角度で取り付けた(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

上の写真のトイレ内部。室面積は6.12m<sup>2</sup>と、かなり広い(写真:日経クロステック)

上の写真のトイレ内部。室面積は6.12m2と、かなり広い(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

木チップを敷いて固めた小道を通って、5棟を回遊できるようにしている。突き当たりは小便トイレ。隈研吾氏は散策を楽しめるようなトイレづくりを目指したという(写真:日経クロステック)

木チップを敷いて固めた小道を通って、5棟を回遊できるようにしている。突き当たりは小便トイレ。隈研吾氏は散策を楽しめるようなトイレづくりを目指したという(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

用途別トイレが3つ、隣り合う小便トイレが2つある。さらに防災倉庫(写真左)がある(写真:日経クロステック)

用途別トイレが3つ、隣り合う小便トイレが2つある。さらに防災倉庫(写真左)がある(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

 鍋島松濤公園は閑静な住宅街の一角に位置し、約5000m2の広さがある。園内は渋谷とは思えないほど多くの樹木に覆われ、大きな池や水車、遊具もある。日中は子どもたちが走り回る、地域住民の憩いの場になっている。そんな中に、新しいトイレはうまく溶け込んでいるように見える。

 個室に入ると、壁に取り付けられた木の飾りが目に入る。トイレ内まで森の集落らしさを演出している。

トイレ内にも木の飾りを付けている。写真は幼児用トイレ(写真:日経クロステック)

トイレ内にも木の飾りを付けている。写真は幼児用トイレ(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

小便トイレも個室になっている。ここにも壁に木の飾りがある(写真:日経クロステック)

小便トイレも個室になっている。ここにも壁に木の飾りがある(写真:日経クロステック)[画像のクリックで拡大表示]

鍋島松濤公園トイレの平面図(資料:大和ハウス工業)

鍋島松濤公園トイレの平面図(資料:大和ハウス工業)[画像のクリックで拡大表示]

鍋島松濤公園トイレの断面図(資料:大和ハウス工業)

鍋島松濤公園トイレの断面図(資料:大和ハウス工業)[画像のクリックで拡大表示]

夜は小道がライトアップされる(写真:永禮 賢、提供:日本財団)

夜は小道がライトアップされる(写真:永禮 賢、提供:日本財団)[画像のクリックで拡大表示]

 日本財団は、誰でも快適に利用できる公共トイレを設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET(ザ トウキョウ トイレット)」を2020年夏から展開している。東京都渋谷区に合計17カ所の新しい公共トイレを設置する。このプロジェクトには隈研吾氏の他、安藤忠雄氏や伊東豊雄氏、坂茂氏、槇文彦氏ら、16人の著名な建築家やデザイナーなどが参画している。

 20年に完成した坂茂氏や安藤忠雄氏らによる7カ所の公共トイレに続き、21年夏には隈研吾氏やデザイナーのNIGO氏、クリエーティブディレクターの佐藤可士和氏らがデザインした合計6カ所のトイレが供用を開始する。隈研吾氏による鍋島松濤公園トイレは、供用を開始した9カ所目のトイレだ。22年3月までには、17カ所全てが完成する計画になっている。渋谷に建築家デザインのトイレ 安藤忠雄氏らと「おもてなし」 誰でも快適に利用できる公共トイレを設置する。意欲的なプロジェクト「THE TOKYO TOILET(ザ トウキョウ トイレット)」に国内外から反響。推進する日本財団の笹川順平氏は、著名な建築家らに協…2020/12/24